前の10件 | -
天国の住人 [その他]
はじめに
エジプトの作家、イフサーン・アブドゥ・ル・クッドゥース(1919-1990)の作品は、アラブの人々が抱える、女性の地位やその他法律的、社会的、宗教的な問題を扱ったアラブ世界の小説の中でも、特によく知られている。ここにあげる小説では宗教的基盤ではなく科学的基盤に立っている人々を描こうとしている。
**********
怖がりながら天に昇っていく魂があった。審判の時が近づきつつあった。行く末はどこだろう?天国?それとも地獄?恐れる魂は、判事になんと言おうかと自問し始めた。判事はなんと言うだろう?過ちを犯したことが忘れられない。しかしちょっとした過ちだった。いや、この過ちで裁かれるだろうか?この過ち故に地獄に行くのか?いや・・・ありえない。この過ちは人を傷つけるようなものではない。
天使の一隊が昇っていく魂を出迎え、ほほえみかけた。天国の客殿で美しい天使が近づいてきて広いホールへと導いた。魂は慈悲深い声を聞いた。
「神の僕よ、お前の人生で何を学んだかを述べよ」
魂は身震いし、ひれ伏した。声が怒鳴りつけた。
「立て、神の僕よ。そして自信を持って判事と向き合え」
魂は立ちあがると、震える声で囁いた。
「私は慈悲深い神に守られております」
声が怒鳴った。
「お前の宗教は?」
魂が答えた。
「イスラーム教徒にございます」
声は一瞬静かになり、手にしていた大きな本を調べた。そして再び話し始めた。
「お前の過ちとはなんであるか?」
「私に過ちはございません。私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました」
声は再び静かになり、かの大きな本のページを繰った。
そして、こう言った。
「お前はワインを飲んだではないか!」
魂は震え、言った。
「私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました!」
声は言った。「お前は女を知った!」
「私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました!」
「礼拝や断食をないがしろにした!」
魂は恐ろしさに震えながら言った。
「私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました!」
声は少しの間静かになり、また話し始めた。そして裁きを述べた。
「天国!」
小さな天使が近づいてきて、魂を天国へと導いた。魂は天国に住む人々を見かけたので尋ねた。
「あなた方はイスラーム教徒なのですか?」
「いいえ」
「キリスト教徒でしょうか?」
「いいえ」
「ユダヤ教徒?」
「いいえ」
「では、あなた方は・・・?」
「わたし達はここに長くいるのです。宗教が出現する以前から。わたし達は世の中の誰に対しても害をなさずに生きてきたため天国にいるのです」
「我が理性、我が心」 イフサーン・アブドゥ・ル・クッドゥース作 より
エジプトの作家、イフサーン・アブドゥ・ル・クッドゥース(1919-1990)の作品は、アラブの人々が抱える、女性の地位やその他法律的、社会的、宗教的な問題を扱ったアラブ世界の小説の中でも、特によく知られている。ここにあげる小説では宗教的基盤ではなく科学的基盤に立っている人々を描こうとしている。
**********
怖がりながら天に昇っていく魂があった。審判の時が近づきつつあった。行く末はどこだろう?天国?それとも地獄?恐れる魂は、判事になんと言おうかと自問し始めた。判事はなんと言うだろう?過ちを犯したことが忘れられない。しかしちょっとした過ちだった。いや、この過ちで裁かれるだろうか?この過ち故に地獄に行くのか?いや・・・ありえない。この過ちは人を傷つけるようなものではない。
天使の一隊が昇っていく魂を出迎え、ほほえみかけた。天国の客殿で美しい天使が近づいてきて広いホールへと導いた。魂は慈悲深い声を聞いた。
「神の僕よ、お前の人生で何を学んだかを述べよ」
魂は身震いし、ひれ伏した。声が怒鳴りつけた。
「立て、神の僕よ。そして自信を持って判事と向き合え」
魂は立ちあがると、震える声で囁いた。
「私は慈悲深い神に守られております」
声が怒鳴った。
「お前の宗教は?」
魂が答えた。
「イスラーム教徒にございます」
声は一瞬静かになり、手にしていた大きな本を調べた。そして再び話し始めた。
「お前の過ちとはなんであるか?」
「私に過ちはございません。私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました」
声は再び静かになり、かの大きな本のページを繰った。
そして、こう言った。
「お前はワインを飲んだではないか!」
魂は震え、言った。
「私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました!」
声は言った。「お前は女を知った!」
「私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました!」
「礼拝や断食をないがしろにした!」
魂は恐ろしさに震えながら言った。
「私は世の中の誰一人に対しても害をなさずに生きてきました!」
声は少しの間静かになり、また話し始めた。そして裁きを述べた。
「天国!」
小さな天使が近づいてきて、魂を天国へと導いた。魂は天国に住む人々を見かけたので尋ねた。
「あなた方はイスラーム教徒なのですか?」
「いいえ」
「キリスト教徒でしょうか?」
「いいえ」
「ユダヤ教徒?」
「いいえ」
「では、あなた方は・・・?」
「わたし達はここに長くいるのです。宗教が出現する以前から。わたし達は世の中の誰に対しても害をなさずに生きてきたため天国にいるのです」
「我が理性、我が心」 イフサーン・アブドゥ・ル・クッドゥース作 より
熱いスープ [ジュハー]
ケーキをむさぼる [ジュハー]
ジュハーはミルク・ケーキが食べたくなったので買ってきて、まず銭湯へと出かけた。その間にジュハーの奥さんの友達がやって来て、奥さんと一緒に、少しだけ残して、ケーキを食べてしまった。銭湯から戻ったジュハーは奥さんに言った。
「ケーキよそってきて」
奥さんは「今お風呂から帰ってきはって疲れてるんちゃいますか。ちょっとお昼寝でもしてから食べはったらどないですのん」と答えた。
ジュハーが寝ると、奥さんはお鍋のふちに残ったケーキをこそげてジュハーの口ひげやらあごひげやら胸やら手やらにばらまき、更に残ったのをテーブルの上で粉々にして撒いた。ジュハーは目を覚まして奥さんに「ケーキ持ってきて」と言った。
「ええ?何ゆうてはるんです?もう一回食べるつもりですのんか?」と奥さん。
「いや、まだ何にも食べてへんがな」
「食べたのん忘れてはるんですか?手ぇもあごひげも口ひげも?ケーキ、むさぼってはったやありませんのん」
ジュハーはその様子を見て、自分が食べたのだと思い、こう言った。
「うわ、そんなんやったら放っといてくれたらよかったのに」
「ケーキよそってきて」
奥さんは「今お風呂から帰ってきはって疲れてるんちゃいますか。ちょっとお昼寝でもしてから食べはったらどないですのん」と答えた。
ジュハーが寝ると、奥さんはお鍋のふちに残ったケーキをこそげてジュハーの口ひげやらあごひげやら胸やら手やらにばらまき、更に残ったのをテーブルの上で粉々にして撒いた。ジュハーは目を覚まして奥さんに「ケーキ持ってきて」と言った。
「ええ?何ゆうてはるんです?もう一回食べるつもりですのんか?」と奥さん。
「いや、まだ何にも食べてへんがな」
「食べたのん忘れてはるんですか?手ぇもあごひげも口ひげも?ケーキ、むさぼってはったやありませんのん」
ジュハーはその様子を見て、自分が食べたのだと思い、こう言った。
「うわ、そんなんやったら放っといてくれたらよかったのに」
犠牲の20 [賢者達]
とある男、砂漠のある場所に財産を埋めて土で覆い、その上に20ディーナールを包んだぼろ布を乗せて、更に土をかぶせておいた。
時が過ぎ、男は財産を取り出しに行った。すると20ディーナールを包んだぼろ布は無くなっていた。男は残りを見つけるためにその下を掘り返した。ありがたいことに財産は無事であった。
男は言った。「盗っ人は20ディーナールを持って行ったが、その下にある2000ディーナールには気づかなかったのだな。」
時が過ぎ、男は財産を取り出しに行った。すると20ディーナールを包んだぼろ布は無くなっていた。男は残りを見つけるためにその下を掘り返した。ありがたいことに財産は無事であった。
男は言った。「盗っ人は20ディーナールを持って行ったが、その下にある2000ディーナールには気づかなかったのだな。」
公正なる王 [その他]
第961夜に、シャハラザードはシャハリヤール王に語りました。
「公正なる王ホスロー・アヌーシルワーンはペルシャの王でございました。ある日、太守や大臣、将軍といった側近達にこう言いました。『近頃身体が弱ってきたように感じる。この状態に効くものは一つしかない』
側近達は『それは何でしょう?』と尋ねました。『くずれた家から取ってきたひとつかみの土だ』とホスローはお答えになりました。『容易い御用です』と側近達は応え、王のもとへ土を持ち帰るために王国中で崩れた家を探し始めました。ところが捜索を始めて丸6日が過ぎ、皆は王の求める土を持たずに戻って参りました。『王国中を探しましたが、一軒の崩れた家をも見つけられませんでした』
側近達の言葉を聞いて、ホスローはニッコリとお笑いになりました。『今、わたしは健康と幸福を感じる。我が王国に崩れが家が一軒もないと確信出来たためである。これは公平さが王朝にあることを示している。アラブの諺にもいうではないか、『公平は王の基礎である』と。公平こそが国に平和、幸福、繁栄をもたらすのだ。王が公平でなければ、その側近達も王に倣うであろう。そうなればやがて国は滅び、住民は家や農園や商店を捨てて国を出て行ってしまうだろう。王の財産は減ってゆき、ついには何もかもなくなり、かつ、その後には何も入ってこなくなるであろう。こうして王は公平さを欠いたが故に、財産も人民も失ってしまうのだ。そして残りの人生を酷い状況で送らねばならなくなる。そしてその行く末は地獄である。」
「千夜一夜物語」より
「公正なる王ホスロー・アヌーシルワーンはペルシャの王でございました。ある日、太守や大臣、将軍といった側近達にこう言いました。『近頃身体が弱ってきたように感じる。この状態に効くものは一つしかない』
側近達は『それは何でしょう?』と尋ねました。『くずれた家から取ってきたひとつかみの土だ』とホスローはお答えになりました。『容易い御用です』と側近達は応え、王のもとへ土を持ち帰るために王国中で崩れた家を探し始めました。ところが捜索を始めて丸6日が過ぎ、皆は王の求める土を持たずに戻って参りました。『王国中を探しましたが、一軒の崩れた家をも見つけられませんでした』
側近達の言葉を聞いて、ホスローはニッコリとお笑いになりました。『今、わたしは健康と幸福を感じる。我が王国に崩れが家が一軒もないと確信出来たためである。これは公平さが王朝にあることを示している。アラブの諺にもいうではないか、『公平は王の基礎である』と。公平こそが国に平和、幸福、繁栄をもたらすのだ。王が公平でなければ、その側近達も王に倣うであろう。そうなればやがて国は滅び、住民は家や農園や商店を捨てて国を出て行ってしまうだろう。王の財産は減ってゆき、ついには何もかもなくなり、かつ、その後には何も入ってこなくなるであろう。こうして王は公平さを欠いたが故に、財産も人民も失ってしまうのだ。そして残りの人生を酷い状況で送らねばならなくなる。そしてその行く末は地獄である。」
「千夜一夜物語」より
バグダード [その他]
*40年ほど前に出版された教科書より
バグダードは、今日イラクの首都であるという理由だけではなく、アラブ・イスラームの歴史上の位置づけからしても重要なアラブの都市である。バグダードはアッバース朝(750年~1258年)から長い間イスラーム文化の中心であった。アッバース朝2代目カリフ、アル・マンスールが町を築き、アッバース朝が確立された後、「ダール・ッ・サラーム(平和の家)」と名づけられたが、バグダードという呼び名に取って代わられた。バグダードとは古代ペルシャ語で「神の贈り物」という意味であると言われている。
バグダードが国の都として選ばれた理由の一つとして、チグリス川に面してることであった。ここからバグダードはこの川の流れている国々と接触を持つことが出来た。その上、バグダードはチグリス・ユーフラテス両川が近づくところに位置しているためユーフラテス川とも繋がりがあり、その川沿いの国々とも容易に接触が持てた。またバグダードは川に囲まれており、それ故的にとっては攻撃が難しく、防御が容易い。ついには当時知られていたようにイスラーム世界の中心の地におかれたのである。
バグダードが築かれてから、世界中どの地域のムスリムも、非ムスリムもが認める有名な文化の中心になるまでに長い時間はかからなかった。また、詩人、学者、医者、哲学者、宗教家、翻訳者たちの出会いの場となり、歴史家達によると、ハールーン・ッ・ラシードやアル・マアムーンの時代には人口は100万人を越えるまでになった。この時代にはすごい数である。その名が有名になったのは、町にある図書館や学校や翻訳所のためだけではなく、千夜一夜物語の舞台であったためでもあり、世界の文学や音楽に影響を残した。
今日では、バグダードはアラブ世界で最も大きな町の一つであり、旅行者は遺跡と新しい町の外観を、通りや建物、行楽地、研究所、博物館、モスクで見ることが出来る。今日の人口は100万を超えている。
今のバグダードにはモスクが二つある。バグダード・モスクと、アル・ムスタンシーリーヤ・モスクである。後者はアッバース朝の有名な学校の名前を受け継いでいる。
バグダードはまた東洋風の屋根のあるスークで有名で、そこではたくさんの手工芸のものが売られている。主要な道路の一つがアッ・ラシード通りで、交易の中心となっている。またアブー・ヌワース通りはティグリス川に面した喫茶店や遊技場、レストランなどで有名な通りである。またナツメヤシの木の庭園や多くの公園が更なる美しさを添えている。
またバグダードには、イマーム・イブン・ハンバルやシェイク・アブドゥ・ル・カーディル・ル・キーラーニー、カーディミーヤの二人のイマームの墓といった聖地もあり、世界中のムスリムが今もこれらの地を目指してやってくるのである。
バグダードは、今日イラクの首都であるという理由だけではなく、アラブ・イスラームの歴史上の位置づけからしても重要なアラブの都市である。バグダードはアッバース朝(750年~1258年)から長い間イスラーム文化の中心であった。アッバース朝2代目カリフ、アル・マンスールが町を築き、アッバース朝が確立された後、「ダール・ッ・サラーム(平和の家)」と名づけられたが、バグダードという呼び名に取って代わられた。バグダードとは古代ペルシャ語で「神の贈り物」という意味であると言われている。
バグダードが国の都として選ばれた理由の一つとして、チグリス川に面してることであった。ここからバグダードはこの川の流れている国々と接触を持つことが出来た。その上、バグダードはチグリス・ユーフラテス両川が近づくところに位置しているためユーフラテス川とも繋がりがあり、その川沿いの国々とも容易に接触が持てた。またバグダードは川に囲まれており、それ故的にとっては攻撃が難しく、防御が容易い。ついには当時知られていたようにイスラーム世界の中心の地におかれたのである。
バグダードが築かれてから、世界中どの地域のムスリムも、非ムスリムもが認める有名な文化の中心になるまでに長い時間はかからなかった。また、詩人、学者、医者、哲学者、宗教家、翻訳者たちの出会いの場となり、歴史家達によると、ハールーン・ッ・ラシードやアル・マアムーンの時代には人口は100万人を越えるまでになった。この時代にはすごい数である。その名が有名になったのは、町にある図書館や学校や翻訳所のためだけではなく、千夜一夜物語の舞台であったためでもあり、世界の文学や音楽に影響を残した。
今日では、バグダードはアラブ世界で最も大きな町の一つであり、旅行者は遺跡と新しい町の外観を、通りや建物、行楽地、研究所、博物館、モスクで見ることが出来る。今日の人口は100万を超えている。
今のバグダードにはモスクが二つある。バグダード・モスクと、アル・ムスタンシーリーヤ・モスクである。後者はアッバース朝の有名な学校の名前を受け継いでいる。
バグダードはまた東洋風の屋根のあるスークで有名で、そこではたくさんの手工芸のものが売られている。主要な道路の一つがアッ・ラシード通りで、交易の中心となっている。またアブー・ヌワース通りはティグリス川に面した喫茶店や遊技場、レストランなどで有名な通りである。またナツメヤシの木の庭園や多くの公園が更なる美しさを添えている。
またバグダードには、イマーム・イブン・ハンバルやシェイク・アブドゥ・ル・カーディル・ル・キーラーニー、カーディミーヤの二人のイマームの墓といった聖地もあり、世界中のムスリムが今もこれらの地を目指してやってくるのである。
皆アダムの末裔 [賢者達]
クライシュ族の若者が三人、やり投げをしようと出かけた。
一人目が槍を投げると、的に命中した。
喜んでこう叫んだ。「オレは、二つの村の村長の末だー」
二番目が槍を投げると、的に命中した。
喜んでこう叫んだ。「オレは殉教者たるウスマーン・イブン・アッファーンの末だー」
三番目が槍を投げると、的に命中した。
喜んでこう叫んだ。「オレは天使もひれ伏す者の末だー」
連れの二人は驚いて尋ねた。
「天使もひれ伏すというお前のご先祖とは誰だい?」
彼は答えた、「人類の父たるアダムさ」
一人目が槍を投げると、的に命中した。
喜んでこう叫んだ。「オレは、二つの村の村長の末だー」
二番目が槍を投げると、的に命中した。
喜んでこう叫んだ。「オレは殉教者たるウスマーン・イブン・アッファーンの末だー」
三番目が槍を投げると、的に命中した。
喜んでこう叫んだ。「オレは天使もひれ伏す者の末だー」
連れの二人は驚いて尋ねた。
「天使もひれ伏すというお前のご先祖とは誰だい?」
彼は答えた、「人類の父たるアダムさ」
扉の守り [ジュハー]
誰のためによかった? [賢者達]
ある男が気に留まっている雀を撃ったが、狙いがはずれ、雀は飛んでいってしまった。
連れの男が言った。「うむ、よしよし」
男は連れを睨んで言った。「お前はオレをバカにしてるのか?」
連れは言った。「いやぁ、言葉通りの意味さ。雀にとってよしよしなのさ」
連れの男が言った。「うむ、よしよし」
男は連れを睨んで言った。「お前はオレをバカにしてるのか?」
連れは言った。「いやぁ、言葉通りの意味さ。雀にとってよしよしなのさ」
屋根がひれ伏す前に [賢者達]
前の10件 | -





